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顔面骨多発骨折後変形治癒患者に対する歯科矯正治療については
2002(平成14)年から種々の学会において発表を重ねております。
外傷による顎顔面骨骨折患者に対する矯正歯科の役割
鶴田仁史, 宮本純平
日本頭蓋顎顔面外科学会誌 第34巻, 第 4号, 130-145, 2018
(平成30年12月25日発行)
顎骨の変形は、上顎と下顎の両方に認められる場合が多くあります。
例えば、次の写真のように、下あごがとても前に出ている(骨格性
下顎前突症)とともに顔全体が左右のどちらかにひどく歪んでいる
(顔面非対称)ように見えるのは変形が上顎から始まっていると
考えられるのです。
このような場合には、下顎だけでなく、上下顎ともに手術を行って
変形を改善します。
上下顎移動術を施行した顔面非対称の症例
上顎咬合平面の右下がりと下顎骨左方偏位を呈する骨格性下顎前突
初診時
治療終了時
詳しい治療経過をご覧になられる場合は画像をクリックして下さい。
これらの顎矯正手術は、口の内側から行いますので、顔に傷が残ることは
ありません。
顎変形症治療では、噛み合わせのほかに顔貌も大きく改善されます。
このことについて、次の写真で説明します。
治療の進め方としては、上下のそれぞれの歯並びを整える術前矯正治療を行なった後に、手術直前にレントゲン写真や顔面写真、模型などを総合的に分析して最終的に手術術式や顎骨の移動量や移動方向を決定します。
これらの術前準備が整うと、(*術前矯正治療を省略あるいは短縮して、早期に手術を行なうことが可能な場合もあります) 顎矯正手術(下顎だけの場合や、上顎と下顎を同時に行なう場合もあります)を行ないます。
当院では、下顎だけの場合と、上顎と下顎を同時に行なう場合が、半々程度です。そして、手術後は、しっかりした噛み合わせを作るための術後矯正治療を行ないます。
次に、治療費に関して簡単にご説明します。
→詳しくは入院期間&費用をご覧ください。
顎口腔機能診断料の施設基準に適合している診療機関では、このような術前・術後矯正治療に保険が適用されます。
(当院も顎口腔機能診断料の施設基準に適合しています。)
*念のために、説明を追加しますが、
保険が適用されるのは、 確実に顎矯正手術をされる(厳密には手術をされた)患者さん のみが該当します。 相談、検査や診断までだとか、 術前矯正治療の途中で止めたりされる場合には、保険は適用されません。このような場合は、すべて私費診療です。
しかし、矯正治療を保険で行う場合には、保険診療で許されている器具・材料を用いて、あるいは治療法や治療の進め方に従わなければなりません。
それ以外の器具・材料や治療法を希望される場合は私費診療(自由診療)となります。また、その場合には、形成外科などで行う顎矯正手術も私費となります。
(すべての治療を私費で希望されることは問題がありません。)
…歯の裏側からの装置を用いた治療や、薬事承認が得られていない材料を用いた治療は保険では行うことが出来ません。
…保険で術前・術後矯正治療を行う場合には、矯正治療の各段階(矯正開始、動的治療開始、マルチブラケット装置開始、顎切り前、保定)で顎口腔機能診断料を算定しますが、これらの
顎口腔機能診断料は前回の診断から6ヶ月経過していなければ算定出来ません。なお、矯正開始は動的治療開始またはマルチブラケット装置開始と一致することが多いと思われます。
別の言い方をしますと、保険診療では通常の治療手順どおりの進め方 (勿論、徒にゆっくりとした治療は行いませんが)で術前矯正治療を行います。そして、治療開始の診断から6か月を経過しなければ、たとえ術前矯正治療(治療手術までの矯正治療)が完了していても骨切り前(顎矯正手術前)の診断は出来ませんし、顎矯正手術後も同様に、術後矯正治療(手術後の矯正治療)が完了していても骨切り前の診断から6か月経過しなければ治療を終了して保定の診断をすることは出来ないことになります。
<重要なポイント>
それは、保険適応の顎矯正手術と顔面輪郭形成術についてです。
これまでに説明してきた上・下顎に対して前後的・上下的・回転移動を行う顎矯正手術は、顎の大きさや位置が好ましい状態になくて、そのために従来の歯科矯正治療のみでは咬合(噛み合わせ、歯並び)の改善が非常に困難であると考えられる場合に行うものです。
顎矯正手術は顔面輪郭形成術に含まれるものですが、あくまでも上・下顎の歯列を移動させて、咬合の改善を目的としたものです。
したがって、上・下顎の一部分、例えば、いわゆるエラが張っているのを小さくしたりとか、オトガイの形だけを変えたりと云った輪郭の修正を意味しているのではありません。そのため、これらの形態修正を希望される際には、形成外科あるいは美容外科で、種々の顔面輪郭形成術を行なうことになります。
最後に、私たちは顎変形症の治療において、さまざまな改良を加えてきました(ブリコラージュ)ので、概要を簡略に記します。
外科的矯正治療におけるブリコラージュ
ここで、ブリコラージュ( Bricolage )とは、
「寄せ集めて自分で作る」、「ものを自分で修繕する」こと。「器用仕事」とも訳されます。元来はフランス語で、「繕う」「ごまかす」を意味するフランス語の動詞
”bricoler ”に由来するものです。理論や設計図に基づいて物を作る「エンジニアリング」とは対照的なもので、その場で手に入るものを寄せ集めて、それらを部品として何が作れるか試行錯誤しながら、最終的に新しい物を作ることです。
手を打つ→それによって状況が変わる→変化した状況に合わせてまた手を打つ→それにより状況が変わる→それに合わせて手を打つ→ということで、外科的矯正治療治療は、まさにブリコラージュ型の手法で行っていると云うことが出来ます。
1.平成 6年から
患者さんの要望に応えるために
→術前矯正治療の短縮・省略を開始
2.平成 9年から
下顎非対称症例における手術後の近位骨片の外側へのflare outと
下顎頭長軸角を変化させないために
→下顎枝垂直骨切り術を導入
3.平成 9年から
上顎咬合平面の左右的傾斜を有する顔面非対称や開咬を改善する
ために
→Le Fort T型骨切り術を併用した上下顎移動術を導入
4.平成13年から
入院期間短縮のために
→クリニカルパスによる周術期管理を開始
5.平成14年から
術後矯正治療の短縮のために
→術後早期からのトレーニングエラスティックによる咬合管理と
開口訓練開始
6.平成16年から
出血量を減少させるための対策として
→Tumescent techniqueを導入
7.平成18年から
術後の出血、腫脹ならびに嘔吐による呼吸困難からの窒息死を
回避するために
→術後の顎間固定を短縮・省略 →現在では、脱”顎間固定”宣言
8.平成20年から
顎矯正手術に手術用顕微鏡と手術支援装置を導入
9.顔面非対称や顔面骨多発骨折後変形治癒などの高度で複雑な変形を
有する症例が増加
→さらなる試行錯誤
顎変形症(外科的矯正治療)に関する研究発表
術前矯正治療の短縮や省略に関する研究発表
入院期間短縮に関する研究発表
なお、顎変形症の治療に伴う主たる偶発症・合併症としては、
出血、知覚異常、後戻り、顎関節症、Progressive Condylar Resorption、
心理的不適応、閉塞型睡眠呼吸障害などが挙げられています。
そのため、治療開始前に起こりうる偶発症・合併症に関する十分な説明を
行って、インフォームドコンセントを得た上で治療を開始すべきであると
されています。
…日本口腔外科学会による顎変形症診療ガイドライン(2008年)
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